東京地方裁判所 昭和52年(ワ)7104号 判決 1979年2月23日
原告 東京信用保証協会
右代表者理事 青木久
右訴訟代理人弁護士 成富安信
同 成富信方
同 青木俊文
同 星運吉
同 田中等
同 高橋英一
右高橋英一訴訟復代理人弁護士 中町誠
被告 株式会社岡島商店
右代表者代表取締役 岡島次郎
右訴訟代理人弁護士 小林勇
被告 遠藤長之亟
右訴訟代理人弁護士 成毛由和
同 逸見剛
同 立見廣志
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の申立
(原告)
一 東京地方裁判所が同庁昭和五一年(ケ)第八七三号不動産競売事件につき作成した昭和五二年七月二二日付別紙第一売却代金交付計算書の債権額欄および交付額欄を別紙第二売却代金交付計算書のとおり変更する。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
(被告ら)
主文と同旨
第二当事者の主張
(請求原因)
一 東京地方裁判所は、訴外多畑耕三の申立により当時訴外本多功所有の別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という)につき昭和五一年(ケ)第八七三号事件として任意競売手続を開始し、その後本件建物を競売の結果、昭和五二年七月二二日付でその売却代金につき別紙第一売却代金計算書を作成した。
二 しかしながら、右計算書には次に述べるごとく過誤がある。
1 訴外昌和貿易株式会社(以下昌和貿易という)は、訴外港信用金庫との間で昭和四六年五月二二日当座貸越等を内容とする信用金庫取引約定を結んだ。そして、昌和貿易の代表取締役である本多功は、港信用金庫に対し右同日右信用金庫取引約定に基づく昌和貿易の債務を担保するため連帯保証人となったうえ、自己所有の本件建物につき極度額を金六〇〇万円とし、被担保債権の範囲は右信用金庫取引約定に基づく債権および港信用金庫が第三者から取得する手形小切手上の債権とする根抵当権を設定した。
なお、右根抵当権は東京法務局杉並出張所昭和四九年五月二九日受付第一八九八一号をもって登記された。
2 昌和貿易は、港信用金庫から昭和四九年五月二九日前記信用金庫取引約定に基づき次の約で金四八〇万円を借受けた。
(一)弁済方法 昭和四九年一二月二五日から毎月二五日限り金一六万円宛割賦弁済
(二)最終弁済期 昭和五二年五月二五日
(三)利息 年一一パーセント
(四)損害金 年一八・二五パーセント
(五)特約 定められた割賦弁済期日に一回でも支払を怠ったときは、当然に残額を一時に支払う。
なお、本多功は港信用金庫に対し右同日昌和貿易の右借受金債務を連帯保証した。
3 原告は、昌和貿易から昭和四九年五月一日右2の同社の借受金債務につき信用保証の委託申込を受けてこれを承諾し、港信用金庫に対し同年同月二一日同社の右借受金債務を連帯保証した。
4 ところで、原告は、昌和貿易および本多功との間で右信用保証委託契約の締結の際求償および代位の関係について次のとおり特約した(以下次の(一)の特約を(イ)の特約、(二)、(三)の特約を(ロ)の特約という)。
(一) 原告が港信用金庫に対し昌和貿易の債務を代位弁済した場合には、昌和貿易および本多功は、原告に対し連帯のうえ原告の代位弁済金全額およびこれに対する代位弁済の翌日から支払ずみまで年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金を支払う。
(二) 原告が港信用金庫に対し昌和貿易の債務を代位弁済した場合には、原告は、本多功が港信用金庫に提供した前記根抵当権の全部につき港信用金庫に代位し、原告の取得する求償権の範囲内で港信用金庫の有していた一切の権利を行使できる。
(三) 本多功が港信用金庫に対し保証債務を履行し、または同人が港信用金庫に設定した根抵当権が実行された場合でも、原告に対し何らの求償権も取得しない。
5 しかるところ、昌和貿易は右2の借受金につき定められた昭和四九年一二月二五日割賦弁済を怠り残額一時に支払うべきことになり、また根抵当権について昭和五一年五月六日取引終了により元本が確定し、東京法務局杉並出張所同年六月四日受付第二二三五八号をもってその旨の付記登記がなされた。
6 このため、原告は、港信用金庫に対し昭和五一年七月一九日昌和貿易の借受金残債務金四五四万円を代位弁済した。
7 従って、原告は、右代位弁済により前記根抵当権を代位取得し、東京法務局杉並出張所昭和五一年七月一九日受付第二九〇六六号をもってその旨の付記登記がなされた。
8 前記(イ)、(ロ)の特約によれば、物上保証人本多功と保証人原告との間の代位の関係については、民法五〇一条五号の規定の適用が排除されて原告は本多功に対し港信用金庫に代位して港信用金庫が本多功に対し有していた一切の権利を行使でき、かつ民法四四二条二項の適用も排除され、原告の取得する求償金債権について適用される遅延損害金の利率は年一八・二五パーセントとなり、右利率は港信用金庫が昌和貿易および本多功に対し有していた遅延損害金請求権の利率と同率であるから、本件根抵当権実行により弁済を受ける場合にも、その遅延損害金の利率は年一八・二五パーセントとなるべきである。
9 従って、原告が代位取得した根抵当権の被担保債権として主張しうる金額は、別紙第二売却代金交付計算書のとおり原告の代位弁済金四五四万円およびこれに対する代位弁済の翌日である昭和五一年七月二〇日から本件配当期日である昭和五二年七月二二日まで約定の年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金八三万五三六〇円ということになるべきである。
三 そこで、原告は、昭和五二年七月二二日の本件配当期日に別紙第一売却代金交付計算書に対し異議を申立てたところ、債権者たる被告らはいずれも右異議を承諾しなかったため、右異議は完結しなかった。
四 よって、原告は、東京地方裁判所が本件競売事件につき作成した昭和五二年七月二二日付の別紙第一売却代金交付計算書の債権額欄および交付額欄を別紙第二売却代金交付計算書のとおり変更するとの判決を求める。
(請求原因に対する被告らの認否)
一 請求原因一、三の事実は認める。
二 請求原因二1ないし7の事実のうち原告主張の各登記がなされたことは認め、その余の事実はすべて不知、同二8、9の主張は争う。
原告の主張する(イ)、(ロ)の特約は民法四四二条二項、五〇一条五号の解釈上第三者である被告らに対してはその効力はない。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因一、三の事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 《証拠省略》によれば、請求原因二1ないし7の事実をすべて認めることができる(但し原告主張の各登記がなされたことは当事者間に争いがない)。
右認定の事実によって考えるに、原告の本件請求の当否は一にかかって原告の主張する(イ)、(ロ)の特約の被告らに対する効力の有無にあるというべきであるところ、民法四四二条二項、五〇一条五号の規定はいずれも任意規定であるから、右(イ)、(ロ)の特約とも当事者間においては有効であるというべきではあるが、右特約の成立になんら関係のない後順位抵当権者等の利害関係人にまで右特約の効力を及ぼすことはできないと解するのが相当である。してみれば、原告が本件競売事件で交付を受けるべき配当金は、民法五〇一条五号、四四二条二項に基づき頭割りによる金額およびこれに対する法定利息、すなわち原告の代位弁済金四五四万円の二分の一である金二二七万円および代位弁済の日である昭和五一年七月一九日から本件競売事件の配当期日である昭和五二年七月二二日まで商事法定利率である年六分の割合による法定利息金一三万七六九三円であるというべきであるから、別紙第一売却代金交付計算書には原告主張のような過誤は存しない。
三 よって、原告の本件請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 塚原朋一)
<以下省略>